近年、公園や公共の遊び場は、単なるレクリエーションの場にとどまらず、防災、地域社会の活性化、心身の健康増進など、人々の生活を支えるインフラとして再評価されている。実際、2023年度末の日本全国の都市公園の数は前年度末より620か所増加し、その面積も拡大している(※1)。
一方で、都市部では公園が不足している状況だ。例えば、一人当たりの公園面積の全国平均は13.0平方メートルである一方、東京は7.6平方メートル、大阪は6.6平方メートルと都市部では大きな差がある(※2)。都市では、土地価格の高騰や宅地化などの影響により、公共空間が限定されているのだ。
そんな中、約165万人が暮らすスペイン第2の都市バルセロナでは、Playable City(遊べる街)を目指す都市計画のもと、続々と新しい公園がオープンしている。中でも注目されているのは、すべての人に開かれた遊びの場がコンセプトの「Espai de Joc 0-99(0-99歳の遊び場)」だ。遊びを通じた交流と多様性の受容を促すこの取り組みは、公園のあり方に新たな可能性を提示している。
この公園の特徴は、全年齢層を対象に400種類以上のゲームを無料で貸し出すスタンドがあることだ。2025年4月には、より包括的な遊びの場を目指して2つの新エリアが設置された。さまざまな木製ゲームで遊べるエリアと、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもたちとその家族に配慮した特別エリアが登場したのだ。
新たに導入された木製ゲームエリアには、「チャイニーズチェッカー」や「フィンランド式ボーリング」など、身体を動かしたり、戦略的に考えたりしながら遊べる世界各地の伝統的なゲームが含まれている。どの遊びもルールが簡単なため、年齢や経験を問わず誰もが気軽に楽しめる。これにより、異なる世代間の交流や協働が自然と生まれ、遊びを通じた社会的つながりをつくる狙いだ。
さらに特筆すべきは、ASDの子どもたちのための遊び空間の整備である。このエリアでは、ASDの子どもの家族、専門家、デザイナー、おもちゃメーカーなどさまざまな立場の人が共同設計した、感覚過敏や集中力の特性に配慮した木製ゲームが用意されている。ASDの子どもたちやその家族が安心して利用できる環境が整えられているのだ。
これは、EUなどが資金提供している「Play AUT the Box」というプロジェクトの一環で、UOC(カタルーニャ・オープン大学)とサバデイ工業高校の共同開発により、公共空間での遊びをよりインクルーシブにすることを目的に開発された。「Box AUT」と呼ばれるプレイコンテナの共同設計を通じて、ASDの子どもたちに適した遊びのプロトタイプを6種類開発。ASDの人々が感覚的なストレスを抱えることのない空間を生み出すことを目指している。
Espai de Jocでは、性別、年齢、文化、障害の有無にかかわらず多様な市民が共に遊び、交流するスペースを提供している。今後は、視覚障害がある人でも楽しめるインクルーシブゲームのあるスペースを開設する予定で、バルセロナ市は、今後も地域団体や学校、青少年クラブなどと連携しながら、多彩な遊びと交流の機会を創出していく方針だ。公共空間でインクルーシブな場が実現することにより、多様性を尊重し合える社会づくりへの一歩となるはずだ。
ほかにもバルセロナ市では、「ボール遊び禁止」の張り紙を撤去する、週末は車道を通行止めにして遊び場を確保するなど、公共空間に遊び場をつくる63の取り組みを実施中だ。現在はまだ工事中の場所も多く、騒音問題などから賛否両論があるが、どのような街並みになるか注視していきたい。
世界中の都市で、世代や文化が違う初対面の人たちが公園で積極的に関わる状況をつくることは簡単ではないかもしれない。しかし第一歩として、そのような「偶然性」を生む場所はつくれるのだと、バルセロナの事例は教えてくれるのだ。
※1 都市公園等整備の現況
※2 国土交通省 R05年度末 都道府県別一人当たり都市公園等整備現況
【参照サイト】L’Espai de Joc 0-99 de la Clariana de Glòries ofereix jocs gegants de fusta i jocs per a infants amb espectre autista i les seves famílies
【参照サイト】Nous jocs inclusius a l’Espai de Joc 0-99 de la Clariana de Glòries
【関連記事】壁の代わりに緑を。アメリカとメキシコの国境に「二国間公園」が建設予定
【関連記事】“みんな一緒”に囚われない、誰もが自分らしく遊べる公園へ。福岡市の「インクルーシブな子ども広場」づくり
【関連記事】歩きやすさが街の多様性を育む。バルセロナ・スーパーブロックの現在地