2025年3月18日、国民民主党の議員が「学校内民主主義法案」(学校教育法の一部を改正する法律案)を参議院に提出したことをご存じだろうか。
この法案は、校則の制定や見直しの際に児童生徒および保護者の意見表明の機会を学校側に義務づける内容を含んでいるものだ。
背景にあるのは、いわゆる「ブラック校則」と呼ばれる、行き過ぎた校則を見直す動き。すでに文部科学省は2022年に改定された「生徒指導提要」において、校則見直しに際して生徒の意見を取り入れることを推奨してきたが、本法案はそれをさらに一歩進め、義務として制度化しようとしているのだ。
加えて、校則に関する情報公開や、教職員に対する子どもの権利に関する研修、意見表明の機会が十分に確保されているかを評価する体制の整備など、包括的な施策が盛り込まれている。評価機関の設計や教員負担の増加など、具体的な制度設計には課題も残るが、ブラック校則への制度的な対抗措置としては重要な一歩だといえる。
実のところ海外では、校則への意見表明にとどまらず、学校運営全体に生徒や保護者が参加できる仕組みが制度的に存在する。フランスでは、小学校から「学級代表者会(conseil des délégués de classe)」が定期的に開かれ、選ばれた学級代表の児童が校長や教師とともに、学級の困りごとや希望を共有・議論する場が設けられている。
たとえば「給食の内容を改善してほしい」「校庭の遊具を修理してほしい」といった生活に根ざした意見が、実際に学校運営に反映されることも多く、子どもたちにとって“自分たちの声が届く”体験となっているのだ。
さらに中学校・高校になると、生徒委員会(Conseil de la vie lycéenne, CVL)の設置が義務付けられており、生徒代表が教職員・保護者・地域住民とともに学校の予算、教育内容、進路支援、いじめ対策などに関する議題について議論を行う。生徒の意見は学校内にとどまらず、教育委員会(académie)や全国レベルの高等学校生活全国委員会(CNVL)を通じて、政策提言の形で国に届けられる仕組みも存在するという。こうした「成熟した市民」になるための準備が、教育の現場で十分に行われているのだ。
「学校の民主主義」が求められる場面は、校則制定に限らない。学校経営、授業づくり、日常の対話と意思決定にこそ、民主主義の実践は求められる。それは、戦後日本の民主教育の黎明期において議論・実践されていた理念でもある。今回の法案提出をきっかけに、「生徒指導」や「規則の遵守」の先にある、“参加する学び”のあり方を改めて問い直していくことが求められているのではないだろうか。
【参照サイト】国民民主党公式ホームページ 【法案提出】「学校内民主主義法案」を参議院に提出
【参照サイト】「学校内民主主義法案」が国会に提出!日本の民主主義教育の転換点に
【参照サイト】海外ではどのように「学校内民主主義」を実現しているのか?フランスの事例を参考に
【参照文献】大津尚志(2012)「フランスにおける生徒・父母参加の制度と実態─市民性教育にも焦点をあてて—」、『武庫川女子大学大学院教育学研究論集第7号』21-26頁
【参照文献】木村元(2015)『学校の戦後史』岩波書店