揚げ物などの調理で必ず発生する使用済み油。日本国内では、事業系の使用済み油の約9割が回収され、バイオ燃料や工業製品の原料として広く活用されている(※)。一方、家庭から出る使用済み油の回収体制が整っているのは一部の自治体に限られ、たとえ仕組みがあっても認知度の低さや手間が障壁となり、十分に回収されていないのが現状だ。
そうした中、家庭の使用済み油を新たな資源として活用するのが、「SOUJI(ソウジ)」という名の洗剤だ。
スペイン発のこの製品は、ボトルの半分に「洗剤の素」となる液体があらかじめ入っており、家庭で使った使用済み油を加えて1分間シェイクすることで、液体と油が化学的に反応し、洗剤として完成するという仕組みだ。
完成した洗剤は、洗濯、掃除、皿洗いなどに使用できる。780ミリリットルの洗剤ができるボトル1本の価格は2025年5月時点で約6ユーロ(約983円)で、欧州における一般的な洗剤と大きく変わらない水準だ。現在はスペイン国内の店舗およびオンラインで販売されている。また、最近ではスペイン国内のホテルに洗剤を製造するユニットを設置するなど、事業者への展開も始めたという。

スペインのヒルトン・マドリード・エアポートホテルに設置された洗剤製造ユニット。/ Image via SOUJI
SOUJIの洗剤の元は、苛性ソーダなどの腐食性物質を含まず、ミネラルと植物由来の成分で構成されているため、肌にも優しいとされている。また、油を加えることでその分子構造が変化し、塩水溶液の一種へと変化する。これにより、完成した洗剤は自然界でも水に溶けやすく、使用後に排水されても油膜が水面に残ることがないのも特徴だ。
使用済み油は、家庭でもキャンドルや石鹸などに再利用できるが、材料や器具を揃える手間がかかり、実践している人は少ない。一方、SOUJIは油を加えて振るだけという手軽さから、忙しい日常の中でも取り入れやすいのが特長だ。
廃油を活用した製品自体は新しいものではないが、既製品として提供されることが多く、使用者がその製造プロセスに関わる機会は少ない。SOUJIでは、油を「自分で入れる」という一手間によって、使う人が「捨てられるものを再利用している」という実感を得られる。この体験は、廃油を含んだ紙を捨てるときの罪悪感を軽減し、「環境に良いことをしている」というポジティブな気持ちにもつながるだろう。
企業が製品を完成品として提供するのでも、自分で一から作るのでもない──SOUJIは、あえて余白を残し、使い手の“関わりしろ”を設計に組み込んだ、新たなサーキュラーデザインと言えるのではないだろうか。
※ ~業界ルールをJASに~廃食用油のリサイクル工程管理JAS
【参照サイト】SOUJI
【参照サイト】Souji: transforming used cooking oil into an ecological detergent
